読書の愉しみ

講談社文芸文庫『個人全集月報集 武田百合子全作品 森茉莉全集』を読んだ。うーん、これを企画した人は誰ですか?素晴らしいじゃないですか。二人とも好きなのに全集を持っていない読者としては、待ってました、という一冊。寄せられたどの文章も興味深いけれど、個人的には森茉莉の息子さんである亨氏と、甥にあたる眞章氏の文章がとても良くて、これを読めただけでも嬉しかった。並行して、中野翠さんが編集した『ベスト・オブ・ドッキリチャンネル』(ちくま文庫)を読み直す。文庫になってすぐに読んだときはそれほど面白いと思わなくて飛ばし読みにしていたぐらいだったのに、今読むとすごく面白くて、ここのところ毎晩、眠る前の愉しみになっている。武田百合子の『富士日記』や『日日雑記』はわりと読み返していたのに森茉莉を読み返すことはなぜか少なかったが、今また読み直したい気分。そういう楽しい気分をもたらしてくれたという意味でも、今回の文芸文庫はよかった。

家の都合で急遽会社を休むことになったが、まあ家にいればいいようなものなので気が楽です。ここのところ仕事も忙しくないし。

先月に実家に帰り、吉野朔実の初期作品『グルービィナイト』『王様のDINNER』『HAPPY AGE』をぶ〜けコミックスで読み返す。この家には今や母一人だけど、昔からの漫画がそのままになっているので、実家に帰るとマンガ喫茶状態。母もときどき読み返すというので、『月下の一群』『オルフェウスの窓』『アラベスク』などは、手元に引き取りたくても引き取れない。なのでダブって持ってたりするのだ。母がいなくなったら漫画は全部引き取るので決して捨てないようにね、と念を押したら、もちろんいいわよ、でもそれ以前に、それ以外のアナタの荷物も片づけてね、と言われたので、帰省のたびに、昔の文集とか恥ずかしくて読めないものなどをすこーしずつ整理したりしている。今回は母が「読み返さない」漫画である『クリスタル・ドラゴン』を鞄に詰めて戻る。

17巻までが実家にあり、18巻から手元にある状態だったので、久しぶりに通読(といってもまだ完結してない)したら、新たな発見もあり2回ほど通読。1巻が発売されてから34年も経っているのにまだ終わらないのはどうかと思うけど、この漫画やっぱり面白い。デイモスよりもこちらを断然応援するので早く終わらせてほしいなあ。先月はほかに惣領冬実マリー・アントワネット』がとてもよかったので、ベルばらの隣に並べてみました。漫画以外はあまり読めず、かろうじて、読もうと思っていてずっとタイミングを逃していたマキューアン『愛の続き』(新潮文庫)を読んだ。ダニエル・クレイグ主演の映画は未見。でもこれは原作のほうがよさそうな感じ。

世界はまだ死なないかも

引きこもりの三連休。背中を痛めて調子悪いし・・・と自分に言い訳し、初日はだらだら。二日目も、雨が降っているし・・・と引きこもってCATVで録画したヴェルナー・ヘルツォーク&クラウス・キンスキー祭り。『アギーレ/神の怒り』『ノスフェラトゥ』『フィツカラルド』を立て続けに観て、クラウス・キンスキーの野獣さにすっかり参ってしまう。下唇が娘のナスターシャ・キンスキーおんなじ。下唇のぽってりした人は好きなんだけどなあ。夜は週に二日しか営業しない近所のパン屋さん(おいしい)で調達したフォカッチャに、スモークサーモンとか、アスパラとか、焼き野菜でワインを飲む。

三日目にようやく重い腰を上げてリニューアルした東京都写真美術館へ。杉本博司の『ロスト・ヒューマン』展、素晴らしかった。カミュ『異邦人』の冒頭は「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。」(窪田啓作訳)で始まるが、これをタイトルにした「今日 世界が死んだ もしかすると昨日かもしれない」シリーズで展覧会が始まる。33の終末シナリオが用意されて、それに沿ったインスタレーションなんだけど、シナリオそれぞれが浅田彰とか平野啓一郎とか朝吹真理子とか束芋などによる手書きになっていて、それが案外面白い。私の好きな劇場シリーズの新バージョン「廃墟劇場」シリーズもよかった。帰りは当然恵比寿ビール。雨でちょっと寒かったけど、外で飲むビールはやっぱりうまいです。

杉浦日向子の新刊と言っていいのだろうか『彩色江戸漫画 花のお江戸の若旦那』(河出書房新社)を読む。いいねえ。このとぼけた感じ。明日が明るくなってくる。

グッドモーニング

眼が合う

大事に使っていたiPod classicがどうやらお亡くなりになってしまったようで、ショックを受けている。いろいろ試してみたんだけどうまく復旧せず、新しいのに買い替えるしかないのかも、と思って電気屋に向かったら、いまはホイール仕様のiPodはないし、携帯みたいに不要なアプリが最初から入っていてうっとおしいし、イマイチ欲しいモデルがない・・・。さらに店員が言うには、Appleの新製品発表前なので今のiPodの在庫もほとんどないらしい(この店だけなのかもしれないが)。 ネットで検索していたら、果敢にもご自分でハードディスクドライブを取り換えていらっしゃる方もいて、公開されている方法も熟読したが、私にはハードルが高い・・・。どうしたもんじゃろ。

寺本愛の挿画の「眼」に引き込まれて最果タヒの『少女ABCDEFGHIJKLMN』(河出書房新社)を読んだ。それからちょっと最果タヒ祭り。『グッドモーニング』(思潮社)と『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)の二つの詩集を買って読む。刺激的な詩句も多いけど、私が好きなのはこんなところ。

水面から睡蓮がのぞいているのを一瞬見た
子供の手のひらがそれをつつんで、ゆっくりと破裂した
飛んだ破片がガラスのように反射して、
これがみんなの朝焼けになるのだと知った日
わたしは散っていく自分の可能性、細胞、筋肉が向こうの海でどうなったのかをしりました
いつか
大海の真ん中朝を迎えて、そうね、もう一度
わたしと再会をしましょう

(「再会しましょう」 〜『グッドモーニング』p86)

こんなのを読むと、そうね、iPodが壊れたぐらいがなんだ、と明るい気持ちになります。

夏の終わり

前回の日記の日付から2か月を過ぎた。この間なにをしていたかというと、前半は、間欠泉のように負のマグマを吹き出す同僚のターゲットになってしまい、毎日その対応に必死。深谷かほるの『夜廻り猫』(KADOKAWA/エンターブレイン)を読んでは泣き、私も負けないぞ〜、と思ってました。ようやく鎮火してくれたようで一安心。いつ噴火するのか全く読めないし、誰がターゲットになるのかも良く分からないが、もう少し穏やかな職場を強く希望。

さらに7月にはPCのACアダプターが故障となり、取り寄せに時間がかかったので2週間ほどPC難民に。途中しびれを切らしてPCを電気店に持ち込み充電させてもらったりしたけど、やっぱり PCが必要ですね、スマホじゃ代わりにはならないよ〜。

いいこともあって、同期会を機に高校時代の友人・知人との交友が復活および新規開拓されたこと。フェイスブックはそれほどやっていないのだが、今回ばかりはその恩恵にかなりあずかれたかも。学生時代の友達ってなんかいいよね。

夏休みは那須の定宿で過ごし、矢野顕子featuring Will Lee & Chris Parkerのライブを見にBlue Note東京に行き、映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を観て、あとはぶらぶら、ごろごろして過ごす。村上柴田翻訳堂シリーズからマキシーン・ホン・キングストン『チャイナ・メン』(新潮文庫藤本和子訳)を読む。自分のルーツを語っているんだけど、神話のような雰囲気を漂わせているところが面白くて引き込まれた。長嶋有『三の隣は五号室』(中央公論新社)は、少し切なさが残る気がして、個人的には『愛のようだ』よりも好みだった。二度読み返す。

オリンピック、始まるまでは全然期待していなかったのに、始まったら結構観てしまいました。体操男子に始まり、水泳、卓球、陸上男子、レスリング。オリンピックが終わると、私の夏休みも終わる。甲子園も終わるね。空もだいぶ高くなってきました。

愉しみはスクリーンの外にも

ロメール特集のZINE

先週まで有楽町でやっていたエリック・ロメール特集「ロメールと女たち」は、結局3本(「喜劇と格言劇シリーズ」から『海辺のポーリーヌ』『緑の光線』『友だちの恋人』)を観て、山崎まどかさんと金井美恵子さんのトークショーを聴いた。どれも久しぶりに観たけど、まったく楽しい。正直言ってこんなに楽しめるとは思わなかった。大学生の時に『緑の光線』をみたときは、自意識過剰なくせに引っ込み思案で高すぎる理想を持った主人公のデルフィーヌにすっかり感情移入をしたが、あれから30年近く。すっかり私も大人になりましたね。ああいった思い込みの強い主人公に対して辟易しつつも、「がんばれ」って、少し冷静な気持ちで(ちょっと上から目線で)鑑賞出来るようになった。金井美恵子さんがおっしゃる通り、そうなるとロメール映画は「癖」になるのです。また上映してくれないかなあ。今度は「四季の物語シリーズ」で特集を希望。

庭の梅の実は去年よりずっと少なかったが、あまり虫がつかず、大きく育った。梅酒のストックがまだたくさんあるので、今年はすべてシロップに回す。レモンで爽やかさを、シナモンスティックでスパイシーさを追加したレシピで、「ku:nel」に載っていた長尾智子さんレシピ。このシロップを炭酸で割って、夏に飲むのが好きなの。ロメールの映画では、登場人物が庭やテラスといった屋外のテーブルで、紅茶やペリエやワインを飲みながら延々とおしゃべりしているシーンがたくさんあるけど、私もこのシロップを庭に面した縁側でのんびり飲むのが大好き。梅雨明けが早くも待ち遠しい!

バカンスおしゃれ計画

1988年5月18日号 「バカンスおしゃれ計

5/21から有楽町で始まったエリック・ロメール監督特集上映。まずは『海辺のポーリーヌ』から観てくる。最初に見たのは多分大学生の時に、ビデオか深夜テレビで。そのあとも2回ぐらい見ていると思うけど、ポーリーヌを演じたアマンダ・ラングレの少年のような体つきとあどけない表情がやっぱりかわいい。白いリネンのレースのブラウスもかわいいし、冒頭とラストで木戸を閉めるときに着ているセーラー服もかわいいなあ。上映が終わったあとに山崎まどかさんのトークショーも。「こんな風にバカンスを過ごせたら、と思わずにはいられない映画」という通り、初めて見た時には、こんな風に夏が過ごせたら、と、すごーくうらやましかったのを覚えている。だって、夏に海辺で男の子と出会って、水着姿のままチークダンス踊ったりするの、日本の(いなかの)高校生じゃちょっと考えられないでしょう。憧れだったなあ、キラキラしてたなあ、と今でもその時の気持ちを思い出す。

今思うと、ロメール映画を観るときの気持ちは、当時Oliveで紹介される東京の高校生の生活やお店なんかにあこがれる気持ちとオーバーラップしていたと思う。恐るべしOlive。