Happy Valley

今朝のバラ

遅ればせながら母の日のプレゼントとして紅茶を贈ろうと銀座のマリアージュ・フレールに寄る。遅くなったのはなかなか銀座に出る機会がなかったのと、本を一緒に送ろうと思っていたから。母は沢木耕太郎が好きで、いっつも「場所がないから本は文庫になったら買うのー」なんて言っているわりにはデカサイズの『246』はちゃっかり買っていたりするんだけど、すべての著作を丹念に読んでいくようなことはあんまりしてないみたいで、いつもいく近所の本屋さんでそのとき目に入った「沢木耕太郎」を買う、というような人である。なので、GWに母が遊びに来たとき、私がブックオフで見つけた『彼らの流儀』と『チェーン・スモーキング』が積んであるのを見つけると「コレ、読んでない」とのたまうので、(私も読んでみたかったし)「じゃあ、読んだら送ってあげる」ということになったのだ。

沢木耕太郎は、高校生のときに『テロルの決算』と『深夜特急』を読んだけど、当時は『印度放浪』『西蔵放浪』『全東洋街道』に代表される藤原新也のアジアの旅に魅かれていたので、それに比べて沢木耕太郎がなんだかキレイ過ぎるように感じ、以来、ちょっと敬遠していた。でも今回、母に送るために読んでみて、あれ、いいじゃない、と思った。スマートなんだけど気負いがないというか、『チェーン・スモーキング』の解説(高見浩)に「自分も楽しみながら読者を楽しませようとする明瞭な意思」とあるけど、そういうところがやっぱりいいのかもしれない。

銀座の買い物の後、だんなさんと待ち合わせてフレンチレストランで食事(だんなさんの誕生日なので)。シャンパンとワインでほろ酔いになって帰宅すると、家の前の緩やかな上り坂の入り口で、谷といえば谷と言えなくもないような場所に、ジャスミンの濃くて甘い香りが溜まっていた。玄関の扉を開けようとすると、今度は、庭からバラの香りも漂ってくる。母に贈る紅茶の名前は「Happy Valley」。今日みたいな夜は、私の住んでいるところも、ちょっとだけ「Happy Valley」。