雨のなかを走らない人たち

朝からハトヤのCMソング(大漁苑篇)が耳について離れなくなってる。職場のお手洗いでそっと口ずさむが、「前はうーみ」のところはうまく歌えるものの「うしろーは、ハートーヤの」のところの音がうまく拾えない。頭の中で繰り返しているうちにメロディーが崩れてしまい、まったく再現できなくなる。仕方がないのでお昼休み、周囲にだれもいないのを見計らってパソコンにイヤホンを差し込み、youtubeを開く。なるほどー。でも「うしろーは」のところは難しいなあ。その後もお手洗いに行くたびこっそり練習する。

帰りの電車で引きつづき『やんごとなき読者』の英語版を読む。単語はわかるんだけど、文章の構造がよく分からず何度も読み返すうちに自宅の駅に着く。ホームに降りて、雨の匂いがするなあと思ったら、瞬く間に激しく降ってきた。しかし、ここはアンゲロプスの『シテール島への船出』のギリシャでもなく、須賀敦子のイタリアでもないので、誰も上着の襟を立てて首をすくめて走ったりしない。みんな携帯で家族を迎えに呼び出したり、タクシーに乗るために並んだりしてる。傘を持っている私は、改札を通り抜けて少し離れたバス停まで、濡れないように傘のなかに縮こまって、そろそろ歩いた。