さまよえる いとおしき書物

見分けがつかなくなる

昨年11月に見逃してしまったBS朝日の『須賀敦子 静かなる魂の旅』シリーズの最終話を、きのうの再放送でようやく見る。第3話は「ローマとナポリの果てに」で、ローマといえば『ユルスナールの靴』なのだった。そのほかにも今回は、須賀さんとペッピーノが住んでいたミラノのアパートの建物が紹介されたり、ペッピーノと二人で夏休みを過ごしたピアーノ・ディ・ソレントにも行ったり(このくだりは『ヴェネツィアの宿』の「アスフォデロの野をわたって」のエピソードそのまま)、最後は「アルザスの曲がりくねった道」をちらりと見せるような形でコルマールまで行く、と盛りだくさんの内容だった。テレビを見たあとは、お約束のように『ヴェネツィアの宿』を読んでは涙を流し、『芸術新潮』と『考える人』の須賀敦子特集を読み直し、そして、そのまま波及効果で今朝からは、マルグリット・ユルスナールハドリアヌス帝の回想』を読んでるところ。

白水社からでているユルスナール・セレクションは最近になって新装版が刊行されたようだけど、近所の書店で購入したのは(売れ残っていた)最初の版。でも、こっちのほうが大人っぽい装丁で、多田智満子の重厚で流麗な文体に似合っている気がする。

ハドリアヌス帝の回想 (ユルスナール・セレクション)書かれた文字は人間の声に耳傾けることを教えた。また逆に、それにひきつづいて、人生のほうが書物の意味を明らかにしてもいった。