ツッツッと

家の窓から

きのうは出産を期に退社を決意した同期の送別会。10人ほど集まった女子の8割は既婚で、そのなかで産んでいないのは私だけだった。お母さんになった同期の話を聞くといつも「たくましいなあ」と感心する。たくましさにおいてはまったく他の誰よりも欠けている私にはうらやましい限り。そしてふと、足元が不安になる。

地球を/つま先で まわして/玉乗りしているみたいに/ホッホッと/昨日の私は/陸の緑/海の青を/ツッツッと
だが今日/てっぺんに/私の気持ちはなく/まわしてもまわしても/あがってこない気持ちを/私の姿が待っている/足もとに地球もなく/立っている
「地球儀」/木坂涼詩集『ツッツッと』詩学社1986年

アーサー・ビナードと結婚し今は絵本の分野で活躍しているらしい木坂涼の『ツッツッと』は高校生のときに買った。白い函はもうすでに黄ばんでいるけど捨てられない詩集のひとつ。すこしだけ寂しい気持ちに共感する。

日本文芸家協会編が講談社から毎年出版している「文学19xx」シリーズから『文学1980』(編纂は秋山駿、大江健三郎奥野健男、桶谷秀明、篠田一士)をブックオフで105円。田中小実昌「バスにのって」、安岡章太郎「遥かなるイリノイ」、藤枝静男「みな生きものみな死にもの」など18人の短篇を収録していてなかなか面白そう。島村利正の「蘇水峡」が入っていたのでおっ、と思って早速読む。都内の大学に入学するまで名古屋にずっと住み、可児には叔父がいるにもかかわらずいまだに木曽川上流方面には疎い。名古屋−塩尻の中央線に乗ったのは片手に満たないかも。なのにこれを読んだら俄然行きたくなった。撚糸の専門家でもある島村利正木曽川に沿った糸の産地を訪ねながら、鮎釣りを楽しんだり、日本ラインに感嘆したりするのが面白い。今度実家に帰るときには塩尻経由の中央線にしようか。それとも名古屋から車を飛ばして行くのもいいかなあ。

夜のテレビは黒澤監督『天国と地獄』のリメークドラマにちょっと期待したい。