置き土産

母と私がお互いの家を行き来するときは、たいてい新幹線経由。というか、新幹線以外の乗り物(飛行機とか車とか)を使ったのはまだ一度もない。新幹線とその後の乗換えを含めるとたっぷり3時間はかかるので、大体の場合、母は「来るときに読みきっちゃった」と読了した本を1冊は置いていく。私の場合、新幹線でビールを飲んでいい気持ちになっちゃうと読みきれないので、帰りもそのまま持って帰るパターンあり。で、今回の母の置き土産は小川洋子ブラフマンの埋葬』(講談社文庫)なのだった。

一緒に住む動物に良い名前をつけてあげるのは難しい。昔飼っていたインコは「チーちゃん」だったし、犬は苗字に「之助」を追加しただけの名前だった。だんなさんの実家で飼っている犬たちにいたっては「ベル」「マル」「カン」だし。どれもこれも、これ以上ないってくらい単純極まりない名前。しかし「ブラフマン」はいいなあ。オリーブの森の描写も「マル」より断然ぴったりくるよ。

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)
ブラフマンは自由に森を走り回る。木々の間からようやく射し込みはじめた朝日が、漂う靄の中で幾筋も重なり合いながら地面を照らしている。梢の高いところで小鳥のさえずりが響き合う。梢の向こうに広がっているはずの空は靄に包まれ、まだ微かに夜明け前の気配を残している。僕は空になったリュックサックを背負い、森の奥へと続く細道を歩いてゆく。
小川洋子ブラフマンの埋葬』(講談社文庫)〜

母の小川洋子ブームはまだまだ続いているようだが、「次も何か持ってくるわ」といいつつ、私の本棚からはアン・タイラー『歳月のはしご』(文春文庫)と庄野潤三夕べの雲』(講談社文庫)を抜いていった。