経験値

morinori2007-03-06

『ちくま』3月号を読んでいたら、中野翠さんが連載「小津ごのみ」のなかで、ちょうど最近読み終えた庄野潤三ザボンの花』を引用しながら、小津映画の平凡な日常の中に存在する”ある種の悲しみ”を説明していた。個人的な印象だけれど、中野さんのいわんとする”ある種の悲しみ”って、少なくとも社会人にならないと理解できないような気がする。学生時代に小津を観たつもりになってたけれど、そんな悲しみはこれっぽっちもおこらなかった。ある程度の人生経験がないと沸き起こらない感情かもしれない。そういう意味で庄野潤三を好きになれたのは、こんな自分でも多少の人生経験がつまれてきた証拠なのかと思い、ちょっと嬉しくなる。

ここのところの通勤の友であった山村修『書評家<狐>の読書遺産』を読み終えた。紹介された本が片端から読みたくなる。なかでも気になったのが井上究一郎ガリマールの家』(ちくま文庫)と室生犀星『我が愛する詩人の伝記』(中公文庫)の二冊。しかし、アマゾンで調べたら両方とも品切れでがっくり。むうう。仕方がないので、未読の文庫から野坂昭如エロ事師たち』(新潮文庫)を選ぶ。

2年ぐらい前ケーブルTVで観た今村昇平の映画『”エロ事師たち”より人類学入門』は面白かった。人生の経験値をさらにアップさせてくれそうな強烈な人々が登場する。ラストはフェリーニの映画のように霧の中に消え行く幻想的な感じだった。それがずっと印象に残っていて原作も読みたかったのだ。宇野亜喜良の表紙バージョンはブックオフで。ブックカバーで隠すのがもったいないくらいすてき。