イタリア 雨の風景

先日録画しておいたBS朝日の番組「イタリアへ・・・須賀敦子 静かなる魂の旅」を観る。3部作らしく、今回は「トリエステの坂道」が中心。須賀さんの本では、『ヴェネツィアの宿』『トリエステの坂道』『地図のない道』あたりが好き。『トリエステの坂道』を読む少し前に、ちょうどテオ・アンゲロプロスの映画『シテール島への船出』を観たばかりということもあって、この映画について触れられている「雨のなかを走る男たち」が記憶に残る。そのせいか、私の中の須賀敦子さんのイタリアは、霧の風景というよりは雨の風景なのだ。今回の番組はほとんどが夏の晴れ晴れとした青空だったので、軽い違和感が残った。

録画を見た後、あらためて読み直す。須賀敦子全集〈第2巻〉

雨が激しくなった。ペッピーノが自分の傘をトーニにさしかけると、彼は、いいよ、いいよ、というように頭をふって、手にもったカーネーションの束を台のうえに投げ出し、こちらがあっと思う間もなく、いちもくさんに近くの建物をめがけて走り出した。さよならともいわずに、両手で背広の衿もとをしっかりにぎって。夫といっしょに街を歩いたのも、トーニを見かけたのも、あれが最後だった。

須賀敦子トリエステの坂道』

いつ読んでもこの箇所では涙が出ちゃいそうになる。