五色園

会社帰りに近所の本屋さん。未読だった川上弘美の『此処 彼処』が文庫になっていたので買う。家に帰って目次の地名をひとつずつ目で追っていて、あ、と思う。「日進町」って、あの日進町のことかなあ、とどきどきしながら本文ページをめくったら、やっぱり、その日進町のことで、しかもあの「五色園」が書かれていたのだった。驚く。

此処彼処 (新潮文庫)高校を卒業するまで、お坊さんが並んでいる五色園からそれほど遠くないところに住んでいた。実家はいまでも同じ場所にあるので、もちろん五色園は知っていたけど、実は園内に入ったことはありません。私の感覚では、五色園は「墓地」であり、その隣には「五色園団地」という住宅街があるところであり、(団地といっても団地マニアの好みの団地ではなくって、このあたりでは田畑や雑木林を造成し、一戸建が100戸ぐらい集まってコミュニティを形成すると「団地」と呼ばれるのだ)、その「五色園団地」は、鳴り物入りで売り出した団地のわりにはちょっとまだ交通の便が悪くて買い物にもちょっと不便じゃないの、と母と私の間で会話が交わされるような場所だったりする。五色園団地に友達が住んでるとか、墓地が五色園にあるとかそういう理由じゃないと行かない場所だと思っていただけに、ちょっとびっくりする。ちなみに五色園のある「日進町」は、いまでは「日進市」になっているんですね。でも、慰めてもらうのにそんなに良いところだとは知らなかった。次に帰省したときは、ちょっと行ってみようかな。別に親戚づきあいで悩んでもいないし、家計簿もつけていないけど、お坊さんの頭はなでてみたい。

『此処 彼処』は、もう少しのんびり読もうと思っていたら、あまりのおもしろさにあっという間に読み終えてしまった。たぶん、またときどきページを開きたくなるであろう一冊である。